【MFA健康コラムVol.73】緩みと緊張のバランス その2
忙しい年末時期に加えて急に寒さが厳しくなり、体調を崩されたりストレスを感じていらっしゃる方も多いのではないだろうか。
前回はそういう時期だからこそと、副交感神経を整える方法をお伝えした。
今回は、どうストレスに向き合うか?についてお話したい。
【ストレスに向き合う】
副交感神経を整えておくと、交感神経の働きも必要なタイミングで活性化しやすくなる。
では、交感神経をストレスと捉えた場合、ストレスについての皆さんの向き合い方や意見はどうだろうか。
ストレス=ネガティブなものであって、できれば避けたい事柄と考える方も多いのではないだろうか。
幾つかの研究を紹介する。
「ストレス生成の悪循環」
ストレスのない1日に憧れる人も少なくはないだろう。
これまでの人生を振り返って、過去から今までに経験したストレスのかかる出来事がなければ、どんなに素晴らしい人生だっただろうか。そう考える人も沢山いるだろう。
ストレスのない生活に憧れるのは決して珍しいことではないが、その「ストレスを避ける」ことが、さらにストレスを生み出しているとしたらどう考えるだろうか。
心理学者たちはストレスを避けようとすると、充実感や人生に対する満足度、幸福度が著しく低下してしまうことを突き止めた。またストレスを避けていると、孤立してしまう可能性があるようだ。
日本の同志社大学が学生を対象に行った研究では、ストレスを避けようとしていると、「つながり」や「帰属」の意識が薄れていくことが分かったのである。
スイスのチューリッヒ大学の研究では、まず学生たちの目標に関するアンケート調査を行い、その後1ヶ月の様子を調べた。期末試験期間と冬休みという1年の中でも特にストレスの多い時期が過ぎた後で、学生たちの様子を調べてみると、集中力、体力、自制心の低下がもっとも著しかったのは「ストレスを避けたい」という願望がもっとも強かった学生であった。
心理学ではこれを"ストレス生成の悪循環"と呼ぶ。
ストレスを避けようとしたことが皮肉な結果を招くのである。
つまり、心の支えを失っていく一方で、ストレスはかえって増えていくのだ。
ストレスが溜まるにつれ、ますます追い詰められて孤立していき、ストレスを感じる状況はことごとく避けたり、自己破壊的な気晴らしに走って辛い気持ちを誤魔化したりするなど、回避的な対処方法に頼るようになる。
心理学者のリチャード・ライアンなどが論文集「幸福の探究」所収の論文で述べている通り「ひたすらに快楽のみを求め、痛みを避けようとする人には、深みや意味に欠けた、仲間のいない人生しか手に入らない」のである。
「退屈が死亡リスクを高める」
充実感をもたらすストレスが欠如すると、健康に悪影響が出てくる。
ある大規模な疫学調査では「非常に退屈」だと答えた中高年の男性たちは、その後20年間に心臓発作で死亡するリスクが2倍以上も高くなることが分かっている。対照的に、目的意識を持って生活している人は長生きする、ということが多くの調査で明らかになっている。
また、9000名の成人を10年間にわたって追跡調査したイギリスの研究では「大きな生きがいのある人生を送っている」と答えた人たちは、死亡率が30%も低いことが分かった。学歴、資産、喫煙、運動などの健康に関わる要素を差し引いても、そのリスクの低さは変わらなかったのである。
このような研究結果をみると、ストレスが必ずしも健康や幸せに害を与えているとは言えないことが分かってくる。またストレスの多い生活を恐れるべきでないことも納得できる。
人びとが生活の中で大きなストレスを感じることが、もっとも生きがいを感じることに重なっている場合には、そのストレスはむしろ健康に役立っているのは明らかなのだ。
ストレスは良いもの。必要なもの。
そうは分かっているがなかなか行動に移せないという方もいるだろう。
そんな方は、まずはしっかりと休むことで副交感神経を高める。そういう時間を意識的に生活に組み込んで欲しい。
人生には、休憩する時間と、エネルギー補給をする時間が必要だ。
副交感神経を高め、そのフラットな状態で、少し背伸びしてストレスのかかるようなことに向き合うと、案外、自分にとって居心地の良い感覚を得られるかもしれない。
年末年始、そして来年への準備として、参考にされてみてはいかがだろうか。
参考書籍
ケリー・マクゴ二ガル「スタンフォードのストレスを力に変える教科書」,大和書房
青砥 瑞人「HAPPY STRESS ストレスがあなたの脳を進化させる」,SBクリエイティブ