【MFA健康コラムVol.105】歩くことの”心理”と”スピード” その1
梅雨の時期に突入すると、普段から実施している生活習慣のリズムも崩しやすい。運動もその一つであろう。
湿度も高いこの時期には、体内に溜まった体温を放熱する意味でも運動は意識したいところである。
雨の合間を狙い、運動習慣は続けていこう。
今回は、ウォーキングに関する知識と、日常から実践できることをお伝えしていく。
【歩行の性質】
二足歩行は人間固有の行動である。
二足歩行ができるまでには誕生から1年余りを要するのだが、これができるのは人間の生得的な性質によるものか、試行錯誤の上に学習をした結果であるのか、心理学で議論されたことがある。
ある研究で、一卵性双生児の双子を被験者に、片方は1歳になる前から直立歩行の訓練をし、もう1人は何もしないでおいて、どちらが早く歩くようになるかと、いうものがある。
結果は同じであったようだ。
つまり、人間が歩くということは、生得的な性質のものだという結論となる。
歩行自体はかなり複雑な機構によって成り立っているとはいえ、いわば反射的に無意識的に行われており、左右の足の体重移動をして片方を前に踏み出すという動作の連続は無意識的に行われる。
一方で歩行は、意識的に、意志的にも行うことができる。
日常の歩行においても、急いで歩く時には意志的な歩行となる。散歩の時は意図的にゆっくりと歩くこともできる。
このように歩行は、意志的反応と、無意識的な反射に分類できるのである。
【意図的な歩行が心理に及ぼす効果】
岩田無為は、意図的に行わせた歩行が歩行者の感情に影響するかどうかを検証した。
あらかじめ行った調査から、怒り、喜び、悲しみの歩行の特徴を抽出する。
それぞれの歩行の特徴は以下である。
怒り・・・全身と肩に力を入れ、大地を強く踏み締めて歩き、つま先は強く蹴り出し、全体的に早いテンポで歩く。
喜び・・・自分に快適な程度に全身と肩に力を入れ、適度に大地を踏み締めて歩き、つま先も適度に蹴り出し、全体的に快適なテンポで歩く。
悲しみ・・・全身と肩の力を抜き、大地を弱く踏み締めて歩き、つま先は弱く蹴り出し、全体的にとても遅いテンポで歩く。
被験者にはこれらの歩き方が感情と関係があるとは知らされずに、それぞれの歩き方で歩いてもらい、その後に情動喚起量尺度に回答してもらった。
様々な感情が計測された訳であるが、それぞれの歩行に合わせた感情が発露した結果となったようである。
特に”喜び”の歩行は他の2つ(怒り、悲しみ)の歩行よりも、はっきりと感情が識別される結果となったようだ。これらの結果は、感情と歩行が、完全とはいえないが、ある程度対応しているということを示しているといえるだろう。
次回は、歩行の性質が気分にどのような影響をもたらすのか、実際に歩く際に意識することについて、お話をする。
参考文献
春木 豊「動きが心をつくるー身体心理学への招待」講談社,2011
園原 健弘「あらゆる不調が解決する 最高の歩き方」PHP研究所,2017
メディカル・フィットネス協会「ウォーキングトレーナー養成講習会テキスト」2024