【MFA健康コラムVol.98】ストレスの功罪と緩和策 その2
前回はストレスの良い面と悪い面についてお話した。
今回は自身の感情をモニターし俯瞰視する一つの方法として、”セルフコンパッション”を紹介する。
【セルフコンパッション】
セルフコンパッションとは、自分への慈しみ、思いやりを意味する。
他者を思いやるように自分自身のことを大切に思うことで、ネガティブな状況、ストレスのかかる状況でも、前向きな気持ちを持ち続けられる心理状態やその技法を指す。
セルフコンパッションに関する研究は今では格段に増え、それがどんなに心身の健康や幸せに有益であるかが証明されている。
セルフコンパッションが高い人ほど、幸福度や人生の満足度、動機づけ、人間関係、身体的な健康状態がよく、不安や抑うつが低い。加えて、ストレスフルな出来事(離婚、健康危機、学業不振、トラウマなど)に立ち向かうレジリエンス(困難や苦境から迅速に回復する力)も高いとされている。
「セルフコンパッション日記」
ストレス耐性や自身のメンタルヘルスへの取り組みとして、1週間、毎日セルフコンパッション日記をつけることをお勧めする。
日記をつけることは感情を表現する効果的な方法であり、心身のウェルビーイングを高めるとされている。
夜の決まった時間に、その日にあったことを振り返ってみる。ネガティブな気持ち、自分を批判した時のこと、あるいは痛みを伴う困難な経験などを全て書き出す。
「大切な友達に接するように自分にも接する」というのがセルフコンパッションを簡単に理解する方法ではあるが、重要な要素として”自分への優しさ”、”他者と共通の人間性”、”マインドフルネス”という3つの中核要素を加味して、日記をつけていくとよい。
”自分への優しさ”
仲の良い友達や家族に宛てて書くように、自分に優しく、思いやりや理解のある言葉をかけるようにしてみる。
優しく安心させるようなトーンで、自分自身に対して、自分の幸せと健康を大切に思っていることを伝えていく。
”共通の人間性”
自分のした経験が、人間であることの一部だという考えに至るプロセスを書き出してみる。
この作業をすることで、1人で悲観的に考えるのではなく、人間は完璧ではなく、誰だって似たような辛い経験をすること、またその可能性に気づけるかもしれない。また、辛い経験の裏に隠れる特有の原因や事情を考えることも良いだろう。
”マインドフルネス”
自己批判や困難な状況で浮かんできた辛い感情に対して、バランスの取れた意識を向けてみる。
悲しみ・恥・恐れ・ストレスなどを書き出し、それらを無視、軽視したり、誇張したり過剰にでも大袈裟にでもなく、批判もせずにありのままを受け入れてみる。
これらを最低でも1週間続けることで、自分自身との対話に何か変化が生じていないか、自分に問いかけてみよう。
神経科学の研究が加速し、ストレスという捉えどころのなかった分野が解明されつつある。
これらの知識を、可能であれば平常時にインプットと実践をすることで、自身に定着させておいて欲しい。そうすれば、いつでもどこからでもやってくるストレス環境下においても、自分らしさを失わずに乗り越えることが可能になるかもしれない。
ただし、無理は禁物である。全てのストレスに一人で向き合おうとせず、自分以外の誰かや何処かの場所に、自分の居心地の良さを求めることも大切なことである。
参考文献
クリスティン・ネフ,クリストファー・ガーマー他「マインドフル・セルフ・コンパッション・ワークブック」星和書店,2019
青砥 瑞人「HAPPY STRESS ストレスがあなたの脳を進化させる」SBクリエイティブ,2021