【MFA健康コラムVol.94】運動不足がもたらす炎症とその対策 その1
私たちの持久力は20歳前後をピークとし、30歳以降、男女差はあるが10歳加齢するごとに5〜10%ずつ低下していく。この加齢による体力低下は、運動不足の生活をしているからではなく、加齢による筋力の低下が主な原因となっている。
この事実を踏まえれば、加齢にプラスして運動もしていない人の末路がどうなっていくのか、想像は容易であるのではないだろうか。
今回はウォーキングの効果にもふれながら、運動が体にどのような効果をもたらすのかを後述していく。
【活動量低下がもたらすもの】
厚生労働省が出している資料によると、生活活動度と医療費の関係を年齢別に示したものがある。
生活活動度が体力に比例すると考えれば、体力の低下曲線と年齢別の医療費が見事に相関してくる。
そして、体力が20代の30%レベル以下にまで低下すると要介護状態になり、自分一人でお風呂に入れない、トイレに行けないという状態になってくる。
活動量の低下、運動をしないという選択は、「面倒である」というその瞬間の欲求を叶えるには都合が良いが、体にとっては何も良いことがないのである。
【寿命と運動】
アメリカ国立がん研究所が65万人の10年間のデータを調べたところ、毎日25分間のウォーキングに相当する運動をする人(肥満者は除く)は、運動不足の人たちよりも4年近く長生きすることがわかった。
毎日10分のウォーキングでさえ、寿命に2年の差が見られたのである。
ケンブリッジ大学の研究チームが30万人以上のヨーロッパ人のデータを調べた研究においても、運動不足による死亡リスクは肥満によるそれの2倍で、毎日20分のウォーキングが死亡リスクを3分の1下げることがわかっている。
また、ウォーキングには心疾患を防ぐ効果もある。
頻繁に歩く人は座りっぱなしの人より心拍数が少なく血圧が低い。1日30分歩くと、冠動脈疾患のリスクが18%下がるという。
そもそも冠動脈疾患は、狩猟採集民にはまず見られない。
タンザニア北部のハッザ族は、年をとっても血圧やコレステロール値が低く、心疾患は皆無であるようだ。
【エネルギーをどこに使うのか?】
人類学者のハーマン・ポンツアーは10年にわたってハッザ族とともに生活し、彼らの運動量とエネルギー消費量に関するデータを収集した。ハッザ族の成人は1日に約9.7〜14.5キロ歩いているようだ。
ところが驚いたことに、ハッザ族の1日のエネルギー消費量は平均的なアメリカ人と同じであったのだ。
彼らは非常に効率よく動くので、ほとんどエネルギーを消費しないのである。
ポンツアーはここから「1日当たりのエネルギー消費量は世界中どこでも同じ」だと考えるようになった。
しかし、そうなると、ハッザ族が歩いたり、登ったり、走ったりするのに使うエネルギーを、運動不足気味の現代人はどこで使っているのだろうか?
それは「炎症反応を強化する」ことである。
例えば風邪をひくと喉が痛くなる。傷口に菌が侵入し化膿し局所が腫れ上がり痛みが出たり、発熱したりする。これらの反応は、外部から体内に異物が侵入すると、それをやっつけよう、追い出そうとする体の反応である。これを医学では「炎症反応」と呼ぶ。
ここで興味深いのは、外部から異物が体内に侵入しなくても、運動不足、肥満など体力低下を引き起こすような生活習慣でこの炎症反応が起こることである。
ただ、この炎症反応のレベルは低く、痛みが出たり、発熱を起こすことは稀で、ほとんどの人が気づかない。しかし、着実に全身性に起こっているのである。自分では気付かないレベルの”慢性的”な炎症なのだ。
この炎症反応が特に脂肪細胞に起これば糖尿病に、免疫細胞に起こってその影響が血管内皮細胞に現れれば動脈硬化・高血圧症に、脳細胞に起これば認知症・うつ病に、さらにこの炎症反応によって分泌されるサイトカインという物質を介して、その影響ががん抑制遺伝子に及べば癌になる、と考えられるようになっている。
次回は、運動がもつ抗炎症作用について、お話をする。
参考文献
メディカル・フィットネス協会「ウォーキングトレーナー テキスト」
能勢 博「ウォーキングの科学」,講談社,2019
園原 健弘「あらゆる不調が解決する最高の歩き方」,きずな出版,2017