【MFA健康コラムVol.67】ネガティブを掘り下げる その2
前回はネガティブと脳、口癖や環境について話をしたが、
【そうは言うものの、ネガティブな思考は簡単には…】
変えられないない。
と思われた方も多いのではないだろうか。
仏教の開祖であるゴータマ・ブッダは、2500年前に「人生は苦である」と言い切った。
生きる苦しみ、老いる苦しみ、病気の苦しみ、死ぬ苦しみ
お金、地位、名誉、物など手にはらないものがある苦しみ
妬みや憎しみなど嫌な感情を抱く人と出会う苦しみ
どんなに愛する人でも、いつか必ず別れが訪れる苦しみ
体や心が思うようにコントロールできない苦しみ…
この世の全ては自分の思い通りにならないことばかりであり、この世の全てのものは苦しみである。最後にはみな命を落として塵に帰る。これこそが人生の真実なのだ、という考え方である。
夏目漱石の言葉にあるように「のんきと見える人々も、心の底をたたいてみると、どこか悲しい音がする」ものである。
人生を不満や不快の連続だと捉えるぐらいなら、さほど実感から離れた考え方でもないだろう。
簡単に言えば、ブッダは「生きづらさは人間のデフォルト設定だ」と説いたわけである。
【ネガティブは普通であると考える】
上記の考え方は、科学的な研究においても裏付けられ始めている。
「ネガティビティバイアス」といい、人間はポジティブな情報よりもネガティブな情報の影響を受けやすく、マイナスなことほど記憶に残る、という心理を表す用語である。
メディアが悲観的なニュースばかり流すのも、不安を煽るフェイクニュースほど拡散されやすいのも、私たちの脳がネガティブな情報に意識を向けやすいことが原因であるのだ。
そもそも、ネガティブは人間の持つ特性の一つと捉えても良いだろう。
生後3ヶ月の乳児に数秒のアニメーションを見せたところ、互いに助け合うキャラには約13秒も視線を送ったのに対し、他をいじめるキャラには不快そうな表情を浮かべ6秒しか見つめなかったようである。
生後3ヶ月の乳児ですら嫌なキャラを避けようとする事実は、人類にとってネガティビティバイアスが普遍的である事実を示していることになる。
【原始の時代からの名残り】
人間は、ネガティブな出来事に比べて、ポジティブな出来事をすぐに忘れるようになっている。仕事で良いことがあったり、人間関係であっても、宝くじで大金が当たったとしても、同じことである。
幸せはすぐに消え去るのに、苦しみは数倍の強さで残り続けるのだから、私たちがネガティブで生きづらさを感じるのも当然のことであろう。
やはり人間の精神は「苦(ネガティブ)」がデフォルト設定されているようだ。
原始の世界では、今と違い脅威に満ちた環境であったことだろう。だからそんな世界を生き抜くには、できるだけ臆病になるのが最適であったはずだ。ところがその感覚が、安全になった世界に生きる現代人にも受け継がれており、結果、機能不全を起こし始めているのである。危険に満ちた原始の世界では役に立った警戒システムが、安全が増した現代では好ましくない影響を生み出している。
それこそが我々がネガティブに苦しめられる一つの要因となっているのだ。
【ネガティブな思考をポジティブな思考に変える】
まずは自分がネガティブなのかポジティブなのか、あらゆる事柄が起こった時にどのような思考傾向があるのか、日々観察してみる。たとえば日々の思考や感情を書き留めて日記をつけるのも1つの方法だ。
その中で、例えネガティブな傾向があったとしても、それは原始の時代からの名残りであり、決して自分が弱いからではないと捉えてみる。ありのままを受け入れるのだ。
その上で、向き合うべき問題や課題を冷静に俯瞰的に見つめ、思考を再構築していく。自ずと、自分のやるべきことを冷静に判断し行動できるのかもしれない。思考に制御されるのではなく、思考を制御することが重要である。
ネガティブという心理状態を、更にネガティブに捉えてしまっている方に届けば幸いである。
参考書籍
図解 脳に悪い12の習慣 林 成之
無(MU) 鈴木 祐