【MFA健康コラムVol.95】運動不足がもたらす炎症とその対策 その2
前回は寿命と運動、炎症反応についてお話をした。
今回はその炎症反応に対抗する、抗炎症効果についてお話したい。
【運動と抗炎症効果】
筋肉から分泌されるホルモンやペプチドなどの物質を総称してマイオカインという。この20年ほどで研究が進み、数十種類のマイオカインが見つかっている。
その中には筋肉を動かすことによって分泌される運動誘発性のものがあり、運動することによってさまざまな影響をもたらすことになる。例えば筋の肥大に関わるもの、血糖値を安定させる働きをもつもの、蓄積した脂肪を燃焼させるもの、動脈硬化のリスクを下げるもの、抗炎症作用などがある。
またさらにはがん性腫瘍を攻撃・破壊するナチュラルキラー細胞を動員し、がんを抑制する可能性があるマイオカインがあることもわかっている。
毎日のウォーキングは筋肉を刺激し、マイオカインを作ることで、特定の種類のがんや心疾患を予防する。
そればかりか、自己免疫疾患を防ぎ、血糖値を下げることで2型糖尿病を予防し、不眠を改善して血圧を下げ、コルチゾール(ストレスホルモン)の血中濃度を下げることでストレスを軽減する効果もあるのである。
薬もいらないし、運動するだけである。しかも決して難しい運動ではない。ただ、歩くだけで良いのだ。
では、その抗炎症に必要なマイオカインを効果的に産生する為には、1日にどれくらいの運動をすれば良いのだろうか?
平均年齢72歳の1万7000人近い女性を被験者にした研究では、1日に4400歩以上歩いている女性は、2700歩しか歩かない女性よりもはるかにマイオカインの産生確率が高かったようである。
この健康効果は1日7500歩までは歩数が多くなるほど高まったが、それ以上は違いが見られなかったようだ。これらは高齢者を対象とした研究なので健康効果をもたらすのに必要な歩数は年齢や活動レベルによって違うだろう。
研究者は、色々なことを加味した上で、同年代の平均的な歩数よりも2000歩近く歩くことを勧めている。高齢者であっても7500歩までマイオカインの産生が高くなるのだから、一般成人であればそれ以上は日常的に歩きたいものである。
またマイオカインはある程度の高さの運動強度で分泌量が増えるという報告が多いため、無理のない高さの強度で運動を行うことが有効である。
歩く際は、スピードを速くすることや階段を使うことで運動強度を上げることができる。
下肢の方が筋肉量が多いため、マイオカインの分泌量も多くなると考えられる。そこでスクワットなどがおすすめである。
寒さも厳しくなってくる季節。ただ運動を行うことが健康に繋がるのはもちろんのこと、実はこの時期は代謝も上がりウエイトコントールにも効果的な運動シーズンである。
年末に向けて良い状態で1年を締め括れるよう、少しの運動を、1歩でも多く運動する時間を、意識してみてはいかがだろうか。
参考文献
メディカル・フィットネス協会「ウォーキングトレーナー養成講習会テキスト」
能勢 博「ウォーキングの科学」,講談社,2019
園原 健弘「あらゆる不調が解決する最高の歩き方」,きずな出版,2017