【MFA健康コラムVol.52】呼吸から介入する運動習慣 その2
何度目かのコロナ感染者数の増加に、益々心身の健康、自己免疫力向上の必要性を感じる今日この頃。
心身の健康や自己免疫力向上にも役割を果たす「呼吸」。
今回は、「呼吸過多」のキーとなる二酸化炭素の量と、ウォーキング時の呼吸エクササイズの方法について述べたいと思う。
【大切なのは二酸化炭素の量】
現代人に多い「酸素過多」。そして前回述べたような心身の緊張と緩和のバランスを整えるキーとなるのが、二酸化炭素の量である。
深呼吸によってたくさん酸素を体内に取り込むと相対的に血中の二酸化炭素濃度は低くなり、血液中のpHはアルカリ性に傾く。例えば、偏った食生活などによって血液が酸性に傾きすぎた場合は、呼吸量を増やすことによってそれを修正することもできることになる。
それが一時的なものであれば問題ないが、常態化すると別の問題が起こってくることになる。適正な血中pHは弱アルカリ性であるが、酸性、アルカリ性、どちらに傾きすぎても体は変調をきたすのである。
酸素量が多い状態のとき、血中pHはアルカリ性に傾き、体は二酸化炭素が不足している状態になる。
これによって起こる体内での重大な問題が「酸素を効率良く細胞に運ぶことが出来なくなる」ことである。
酸素は赤血球中のヘモグロビンと結合した状態で細胞まで運ばれるわけだが、この酸素とヘモグロビンの遊離には二酸化炭素が必要になる(ボーア効果)。つまりどれだけ深呼吸をしたとしても、二酸化炭素がなければ酸素は一定量しか体内に取り込めない。
大切なのは、血中の酸素を効率良く確実に全身の細胞、脳や筋肉に届けること。そのために必要なものは、過度な酸素ではなく、適正な量の二酸化炭素なのである。バランスが重要なのだ。
もちろん屋外や景色の良いところでの深呼吸はリフレッシュ効果があり、一概に酸素を多く取り込むことが悪ではないことは、ご承知おきいただきたいところである。
日常の中で適切な呼吸、バランスの取れた呼吸が出来ていないことに、問題があるのだ。
【歩きながら、少し意識してみよう】
散歩またはウォーキングは、運動習慣の十分な手始めになる。
身体が健康であり、特に腰や下肢に疼痛などがなければ少し歩幅を広げて速めのスピードで歩き、あわせて脳への刺激も意識して行なってみるといいだろう。
散歩やウォーキングをしながら、目に映る景色を楽しみ、鼻から入る匂いを感じ、耳に届く情報に感覚を研ぎ澄まし、肌にふれる風や感じる温度に、季節を感じるのである。このように身体運動を行いながら五感をフル活用することで、脳への刺激を入れるのである。
そこに「呼吸」を取り入れてみる。
顔は真っすぐ前を見て視線は10~15m先にして背筋を伸ばし、鼻で呼吸をしてみよう。一気に息を吸い込むのではなく、できるだけ呼吸量を抑えてお腹周りや胸郭を膨らますように、ゆっくりと長い呼吸を意識するのだ。ゆっくり鼻から息を吸い込み、口から細く長く息を吐く。これを歩くリズムに合わせて行うと良い。
思っている以上に呼吸が苦しくなる方もいると考えられるので、30秒間、または1分間といったように、まずは実施する時間を決めて導入していただくのが良いだろう。決めた時間を、間をおいて数回繰り返したり、徐々に時間を長くしていったり、自分の身体と相談しながら導入してみよう。
もちろん、体調の優れない状態での実施は、先の五感をフル活用した散歩程度に留めていただきたい。
自律神経機能の中で、唯一自らコントロールできるのが呼吸である。
ストレスが多い現代では、無意識のうちに浅く短い呼吸になり、息を吸いすぎになりがちである。これでは交感神経が優位に働きやすく、自律神経のバランスが崩れ、睡眠の質の低下や消化吸収機能、免疫力の低下を引き起こしてしまう。
回数や速さを意識した呼吸をすることで副交感神経を刺激し、自律神経のバランスを整えることが大切になる。
身近に運動指導者がいる方はその方の指示を仰ぎ、自身にとってベストな呼吸エクササイズを導入してみるとことが、日常での変化や長年の心身の不調改善のキッカケになるかもしれない。
上記のように運動中はもちろんのこと、それ以外においても、背筋を伸ばして「呼吸」を意識してみて欲しい。
そうして適切な呼吸を意識していくことが、運動を行う以前の「その人」の身体機能を正常化することに繋がる。
2022年が皆様にとって健康で、素晴らしい1年となることを願う。
参考
WHO 「身体活動に関する世界行動計画2018-2030」
「新しい呼吸の教科書」 森本 貴義 / 近藤 拓人
ウォーキングトレーナー養成講習会テキスト/(一社)メディカル・フィットネス協会