【MFA健康コラムVol.121】春の“ゆらぎ”に向き合う
春の訪れとともに、街には新しい風景が広がる。
卒業と入学、異動や転勤。多くの人にとって「はじまりの季節」となる春は、生活リズムの変化や新しい人間関係が加わり、心と体に大きな影響を与えるタイミングでもある。
この時期、「なんとなく体が重い」「朝起きにくい」「気分が不安定になる」などの変化を感じる方も少なくない。春は自然界が芽吹く時期であると同時に、私たち人間にとっても“内なるリズム”が大きく変動する季節なのだ。
【春は「変化」と「適応」の季節】
春は、気温や気圧、日照時間の変化に加え、新年度という社会的な節目も重なる。こうした複数の変化に対応するため、私たちの体は自律神経やホルモンバランスを調整しながら日々適応を続けている。
しかし、その変化にうまく順応できないと、イライラ、頭痛、眠気、だるさ、花粉症など、さまざまな形で不調が現れてくる。特に現代社会では、情報過多や人間関係のストレスが加わり、脳や神経に大きな負荷がかかるため、回復が追いつきにくい傾向がある。
私たちの心身は、思っている以上に“環境”から影響を受けている。
新しい環境に慣れようと頑張っているだけでも、体はエネルギーを消費しているのである。
そのことに気づかず、いつも通りに過ごそうと無理をしてしまうことが、春の不調の背景にあるのかもしれない。
【春の不調は、脳と神経の“ゆらぎ”から】
春の不調の正体は、単なる疲労や運動不足ではなく、脳や神経系の過剰な働きによる「中枢性疲労」であることが多い。
新しい環境に適応しようとする中で、私たちは無意識のうちに注意を張り巡らせ、感情を調整し、常に“正解”を探そうとしているのである。
こうした見えない努力は、少しずつ脳を疲弊させていく。
「何もしていないのに疲れる」「集中できない」「夜、眠ってもスッキリしない」といった感覚は、心の問題ではなく、神経の働きが過剰になっているサインかもしれない。
また、このような時期に起こる心身の不調を、“気合いや根性”で乗り切ろうとするのは逆効果になることもある。
無理をせず、自分の状態に優しく目を向ける視点が大切である。
【季節と調和する「3つの養生法」】
そんなゆらぎの多い春と調和するために、次の「3つの養生法」を意識してみるとよい。
①朝の光を浴びる
体内時計をリセットし、自律神経のバランスを整える上で、朝の太陽光は欠かせない。
カーテンを開けて光を取り込む、朝の散歩を取り入れるなど、少しの工夫で一日の質が大きく変わる。
②“春に合った食材”を選ぶ
春は体の内側でも代謝が変化する時期。酸味や苦味のある春野菜、柑橘類などを取り入れ、消化に優しい食事を意識することで、内臓の負担を減らし、不調を防ぐことができる。
また、「冬の間にため込んだものをゆっくり外へ出す」意識もポイント。無理な食事制限ではなく、整えるという視点で、身体の巡りをよくする食生活を心がけたい。
③深い呼吸で心身を整える
情報過多な現代では、意識が常に外に向いてしまいがち。
あえて立ち止まり、呼吸に意識を向ける時間をつくることで、自律神経のバランスが整い、心の安定につながる。1日1分でも、自分の“内側”に意識を戻す時間が、変化の多い季節には必要だ。
何かを「足す」のではなく、すでにある呼吸に「気づく」。
それだけで、今いる場所や感情への向き合い方が変わってくることもある。
【春を味方にする“余白”の時間】
春は、自然界だけでなく、私たちの心身にも新しいエネルギーが芽吹く季節。
しかし、芽吹きにはエネルギーが必要であり、それを支えるのが「整った土壌」=「健やかな心と体」である。忙しい日々の中だからこそ、自分の状態に丁寧に目を向け、ほんの少しでも整える時間を持つこと。
それが、春の“ゆらぎ”と調和し、この季節を前向きに過ごすための鍵となるかもしれない。
何かと症状が出やすい時期だからこそ、この記事が健やかに日々を過ごしていただく参考になれば幸いである。
参考文献
鈴木 祐「最高の体調 進化医学のアプローチで、過去最高のコンディションを実現する方法(ACTIVE HEALTH)」クロスメディア・パブリッシング,2018
近藤 一博「疲労とはなにか すべてはウイルスが知っていた」講談社,2023