【MFA健康コラムVol.118】環境が作る心と身体の未来
私たちが日々過ごす空間や環境は、単なる背景ではなく、心と体に大きな影響を与える。感性を育み、心身を整え、創造性を引き出す力を持つ環境をどのように作り出すかが重要である。
現代社会では、環境がもたらす影響を見直し、アートやデザインを活用して新しい価値を生み出すことが求められている。
日常での活用方法を幾つか紹介したい。
【空間と心理の関係】
空間デザインは、私たちの行動や心理に直接作用する。自然光が差し込む空間や緑豊かな環境は、リラックス効果を生み、ストレスを和らげる。
一方、閉鎖的な空間や人工的な光の多い場所では、集中力の低下や疲労感が起きやすい。
また、色彩も空間における重要な要素である。青や緑は安心感や落ち着きを与え、赤や黄色は注意を引きつける力を持つ。
例えば、リビングにはリラックス効果のある緑やベージュを取り入れ、集中を要するワークスペースには刺激を与える赤やオレンジのアクセントを加えることで、目的に応じた空間をデザインすることができる。
【アートがもたらす日常の変化】
アートには、私たちの脳と心に直接働きかける力がある。美しい絵画や音楽に触れると、ドーパミンが分泌され、幸福感や創造力が高まることが「アート脳」で示されている。日常にアートを取り入れることで、心の安定や感性の向上を図ることができる。
その方法は簡単である。例えば、リビングの壁にお気に入りのアートを飾ったり、自然をモチーフにした写真を額装して飾ったりする。
日常的にアートに触れたいなら、手軽に楽しめるアートブックを購入するのも良い。
さらに、週末には美術館やギャラリーを訪れ、さまざまな作品に触れる機会を作ると、新たな視点が得られるだろう。
また、自分で創作活動を始めるのもおすすめだ。絵を描いたり、簡単なクラフトを作ったりすることで、脳がリフレッシュし、達成感を得られる。
最近では、大人向けの塗り絵や手軽に始められる陶芸セットなども人気で、自宅でアートを楽しむ選択肢が広がっている。
【デザインが導く未来】
「デザインフルネス」は、環境デザインが健康や幸福に及ぼす影響を深く掘り下げている。
自然光や植物を取り入れた空間は、心身の回復を助け、人間本来のリズムを取り戻す力を持つ。たとえば、医療施設での癒しの庭や、オフィスに配置された観葉植物は、従業員のストレスを軽減し、生産性を向上させるという研究結果もある。
自然とテクノロジーを融合させたデザインも未来の鍵となる。
スマートホーム技術を利用して光や温度を最適化したり、バーチャルリアリティで自然環境を体験できる空間を作る試みが進んでいる。これらは、環境との調和を保ちながら快適で豊かな生活を提供する可能性を秘めている。
環境は、私たちの心と体に深く作用する力を持つ。その力を意識的に活用することで、心地よい空間を作り出し、より豊かな生活を実現できる。
アートやデザインを日常に取り入れることは、特別なことではなく、手軽に始められる第一歩だ。
お気に入りのアートを飾る、観葉植物を取り入れる、自然を感じる小物を置くといった小さな工夫から始めてみよう。これらの取り組みが、心身を整え、より良い未来を切り開く鍵となるはずだ。
この記事が、環境を見直し、日常をより豊かにするきっかけになれば幸いである。
参考文献
スーザン・マグサメン,アイビー・ロス,須川綾子「アート脳」PHP研究所,2024
イサベル・シューヴァル,久山葉子「デザインフルネス 脳科学でわかる心地よい生活環境のつくり方」フィルムアート社,2023