【MFA健康コラムVol.117】周囲の環境とヒト その2
前回は人間を取り巻く環境が、人間に与える影響について、病院の環境を例にお話をした。
今回はヒトが「理想」とする環境について、お話する。
【サバンナが理想?】
人間の歴史を通じて、周囲の場所(環境)を読み取りコード化する能力は、生き延びるために欠かせない前提条件であった。しかし現代社会で当たり前になっている周囲の物の大半は、進化の歴史から見るとほんの一瞬しか存在していない。
一方、私たちの脳や生物としての基本的なニーズは気が遠くなるほど長い時間の進化を経て今に至っている。
今のような現代的な環境、私たちの日常になった都市生活やデジタル化というのは、人類の歴史上、最後の一瞬での出来事。
私たちの脳は、とうの昔生まれたときから、サバンナで生きていくために、狩猟最終民の生活に合わせてプログラム化されているのだ。
しかし現代はどうだろう?
都市化、デジタル化、そして最新テクノロジーが生活の中に溢れている。
産業社会の規範もいまだ残っているせいで労働時間は長く、おまけに最近では常にインターネットに接続され、追い回されているような状態。
いわば、サバンナの生活とはかけ離れているのだ。
【見晴らしの良い場所】
アンジャン・チャタジーの研究チームは、脳が様々な環境にどう反応するのか、そして美的経験の裏にどういった神経メカニズムが存在するのかを調べている。
興味深いのは、人間が美しいとか魅力的だとか感じるものは、人間の進化や生物学、脳に根ざしていること。環境について言えば、見晴らしの良い広々とした場所を好むのである。
これは、かつて人間の脳が発達したアフリカのサバンナを連想させるから。進化の見地から考えると、広々とした場所なら肉食動物や敵を簡単に見つけることができる。またサバンナにはぽつりぽつりと木が生えていて、そこに身を寄せることができ、植物や食料、水もある。
研究によれば年齢、民族、出身に関係なく、人間はアフリカのサバンナを連想させる景色を他のどんな景色よりも好むというから驚きである。サバンナに一度も行ったことがなくても、進化の過程で、脳がそれを覚えているのだ。
上記の研究結果を踏まえた上で、家や学校、病院、職場、都市をデザインすれば、人間の基本的な行動、感情、ニーズに調和した環境を作ることができるだろう。
時代の発展と共に便利になってきたと感じる昨今であるが、人間が、脳が適応してるとは到底言えないのである。
次回は、身の回りの環境が自身に与える影響について具体的に紹介していく。
年末年始、帰省や休暇などで環境も代わり心身への影響を受けやすい時期であるが、その変化も楽しみながら日々を過ごして頂きたい。
参考文献
スーザン・マグサメン,アイビー・ロス,須川綾子「アート脳」PHP研究所,2024
イサベル・シューヴァル,久山葉子「デザインフルネス 脳科学でわかる心地よい生活環境のつくり方」フィルムアート社,2023