【MFA健康コラムVol.116】周囲の環境とヒト その1
人間は進化の過程で様々なモノを手に入れてきた。
住む場所、仕事、家、どれをとっても不自由なく暮らすことができる昨今、その時代の進化と変化に人間が適応できずにいることも確かである。
カラダのこと、そしてメンタルヘルスのこと。
どちらも医学的なアプローチが主であるが、改めて人間を取り巻く環境が、人間に与える影響について掘り下げてみたい。
【無意識だからこそ意識したい】
体にとって意識していること、心にとって意識していること。
それらを日常的に実践しているのに、体も心も、自分の思うように良い方向にいかない経験をしたことがあるのではないだろうか?
もしかしたらその原因は、自分が意識していない環境に問題があるのかもしれない。
部屋の照明、温度、香り、目に映るもの…
何気無い住環境や職場環境、もしくは住む街によって、自身の心身の状態は変化していく。そこに着目することが、変化の第一歩になるかもしれないのである。
【病院覚え書き】
1854年、クリミア。燃え盛る戦場の最中、イギリス人看護婦ナイチンゲールは野戦病院で働いていた。何万人という兵士が命を失い、その死は絶望と苦痛に満ちたものであった。
そんな中、ナイチンゲールはあらゆることを観察し、つぶさに書き留めたのである。医療スタッフの患者への対応、衛生状態、病室の様子、それに日当たりが良いかどうかまで。患者の回復を妨げるストレス要因や、逆に元気になる要因にも着目したのだ。
例えば騒音である。患者に害を与えるとして、騒音を減らすことも提言したようだ。医療環境に必要なのは騒音ではなく、美しい景色、生花、たっぷりの日光、そして綺麗に片付いていること。そういった要因が良い意味での気晴らしとなり、治療のプロセスを促進すると考えたのである。
ナイチンゲールはその才能と新しい考え方により、大きな変化を起こすことになる。野戦病院では何千人もの兵士が命を救われ、致死率は42%からなんと2%まで低下。彼女の提言は間もなく、一般の病院にも導入されるようになったのである。
ナイチンゲールの気付きそして原則は、現在でも病院建築の礎となっている。
現在の研究でも裏付けられているように、日光やアート、心地よい色合い、植物といった快適さを生む要因のある医療環境や病院は、居心地の良い家庭を思わせる。
患者にとってはもちろんであるが、病院のスタッフにとってそこは職場。その職場が心地よい環境であることは、そこに居る全ての人にとってプラスになる可能性がある。
次回は、ヒトが「理想」とする環境について、お話する。
参考文献
スーザン・マグサメン,アイビー・ロス,須川綾子「アート脳」PHP研究所,2024
イサベル・シューヴァル,久山葉子「デザインフルネス 脳科学でわかる心地よい生活環境のつくり方」フィルムアート社,2023