【MFA健康コラムVol.87】知っておきたい熱中症の基本と予防策
連日、各地で高温の予報が出るここ最近。
熱中症アラートが日常化している最近の夏であるが、熱中症にならない為にできることは何があるだろうか? 知っているようで忘れている知識の復習から、具体的な対策までを挙げていきたい。
【いわゆる熱中症】
熱中症は、暑さによって生じる障害の総称で、熱失神、熱けいれん、熱疲労、熱射病などの病型がある。
スポーツで主に問題となるのは熱疲労と熱射病であるが、この暑さの中、スポーツに限った話ではなく一般の方もその知識と対策を理解しておく方が良いだろう。
・熱失神・・・暑熱環境下において、体温調節のために全身に血液を行き渡らせることになり、一時的に血圧が下がってくる。目眩や失神などの症状が主で、足を高くして寝ることで回復していく。
・熱疲労・・・大量の発汗があるにも関わらず、適切な水分摂取ができないと脱水状態になる。その結果、全身倦怠感や疲労感、めまい、頭痛などの症状が出てくる。事前の水分補給がポイントとなる。
・熱痙攣・・・汗には塩分も含まれる。大量の汗をかいた時に、水分を意識的に摂取するが、真水を摂ることで体内の塩分濃度が下がってくる。その結果、筋肉の痙攣が主な症状として現れる。スポーツドリンクのような塩分を含んだものを摂取することが大切である。
・熱射病・・・異常な高体温となり、意識は朦朧とし脳への影響も出てくるステージ。非常に危険な状態なので速やかに医療機関での手当てが推奨される。
【事前にできること】
熱中症になってからの応急処置も大切であるが、事前に予防の観点から出来ることには何があるだろうか?
スポーツ活動時のみならず、今や”誰もが皆”その対象となるだろう。
まず紹介したいのが、「手を冷やす」ということ。スポーツ活動前のみならず、お出かけ前にも実践してもらいたい。
「なぜ手なのか?」というと、手には「AVA(動静脈ふん合)血管」という体温調節を担う血管が手のひら側にあるからだ。
AVA血管は熱い血液を流して、その熱を逃がす。 体温が上がるとAVA血管の直径は毛細血管の約10倍に拡張し、約1万倍の血液を流すのだ。
実はAVA 血管は手のひらだけでなく、足裏、顔では耳、まぶた、鼻、唇と皮膚の薄い末梢に多く存在し、皮膚表面から約1mmと毛細血管より少し深いところに1平方センチ当たり100〜600個存在する。
このAVA血管の通る部位を冷やすのだ。
中でも手のひらは比較的簡便で、お出かけ前にもアプローチしやすい。事前にアプローチしておくことで、暑熱環境下において深部体温の上昇を抑えることができるのだ。
では、冷たい保冷剤や氷で冷やせば冷やすほど良いかというと、それも問題である。
冷たすぎるものは血管を収縮させて、体内の血流量を逆に低下させてしまう。
また、人は皮膚温度が17度以下の冷刺激を受けると痛みを感じてしまうこともあり、冷たければ冷たいほど良いというわけではないのである。
家で実施する場合、水道水の温度はその源流に依存することが多いため、季節の影響を受けやすい。夏場は30度近くまで上がることもしばしば。洗面器などに氷を何ブロックか入れて、冷感を感じる程度で冷やすように心がける。
痛みの刺激があれば冷やし過ぎであるため、一つの指標とすると良いだろう。
細かい設定になるが、深部体温上昇の抑制に効果的なのは、20℃の水に20分間手をつけること。これは、労働安全衛生総合研究所の研究結果から分かっている。
少し面倒ではあるが、氷が溶けて冷感を感じなくなってきたら再度氷を追加して、冷感をキープできるように工夫すると良いだろう。
何事も事前の準備は必要である。
特にこの夏のような暑熱環境下においては、外出時にいつも通りの自分でいるためには、暑さ対策は必須となるだろう。
冷たいものを飲んで深部体温を下げておいたり、睡眠や食事をいつも以上に意識しより健康面に気を遣うことも、熱中症にならない為の事前準備となるであろう。
この記事をお読みの方が、快適に、そして健康に夏を過ごせることを願う。
参考文献
日本スポーツ協会,「スポーツ活動中の熱中症予防ガイドブック」,https://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/data/supoken/doc/heatstroke/heatstroke_0531.pdf
大塚製薬,「熱中症からカラダを守ろう」,https://www.otsuka.co.jp/health-and-illness/heat-disorders/
平山 邦明,「トレーニングとリカバリーの科学的基礎」,文光堂,2021
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