【MFA健康コラムVol.39】ストレスの役割 その1
前回、「ストレスとは?」を掘り下げ、分解することで理解を深めた。
今回は、悪者扱いされることの多いストレスにはどのような役割があるのかを説明し、避けて通る方が良いストレスについて紹介したい。
【ストレスの欠如は人を不幸にする】
こう言われると、皆さんはどう考えるだろうか?
ストレスが大きく降りかかっているコロナ禍においては別であるが、ストレス自体は決して悪者ではないという研究結果が多く出ている。2005年から2006年にかけて「ギャラップ世論調査」では、121カ国、12万5000名の15歳以上の人々に、一つの質問をした。
「あなたは昨日、大きなストレスを感じましたか?」
121カ国中、「大きなストレスを感じた」という人の平均は33%だったが、アメリカでは43%、最上位はフィリピンで67%、最下位はモーリタニアでわずか5%強だった。
国ごとにかなりの差が見られたため、研究者たちは次のことに興味を持つことになる。
「各国のストレス度指数は、幸福度や平均寿命、国内総生産(GDP)など、国民の繁栄を示すその他の指数とも比例しているのだろうか?」
結果は研究者たちも驚くことに、ストレス度指数の高い国ほど繁栄度も高いことが分かった。また、前日に大きなストレスを感じた、と答えた人々の割合が高かった国ほど、平均寿命が長く、GDPも高かったのだ。
一方で、モーリタニアのように、貧困や飢餓が蔓延し汚職や暴力が横行している国の人々は、必ずしも自分たちの生活はストレスが多いと思っていないことがわかった。
世界各国の人々が「ストレスが多い」と言う時、その内容は客観的に見て明らかな社会的な悪条件とは、必ずしも一致していなかったようである。
【ストレス・パラドクス】
総体的な繁栄度を評価した場合、その世論調査で最も幸福な人たちは、ストレスのない人たちではなかったのだ。もっとも幸福な人たちは、大きなストレスを感じていながらも、精神的に落ち込んでいない人たちだった。
そのような人たちは、自分の人生をほぼ理想に近いと考えている割合が高いこともわかり、逆にもっとも不幸な人たちは屈辱感や怒りを強く感じている一方で、喜びはほとんど感じでおらず、そこには「ストレスの明らかな欠如」が見られたのである。
「スタンフォードのストレスを力に変える教科書」の著者でありケリー・マクゴナガルは、このことを「ストレス・パラドクス」と呼び、次のように語っている。
「ストレス度が高い事は、苦痛とも繁栄とも関連がある。重要なのは、幸せな生活にはストレスが存在し、ストレスのない生活は必ずしも幸せとは言えないと言うこと。多くの人々が「ストレスは害になる」と思っているにもかかわらず、ストレスが多い人の方が愛情や健康に恵まれ、人生に対する満足度が高いようである。」
「ストレスを避けて緩和しましょう」「現代社会はストレスが多いので副交感神経を高めましょう」と言われることの多い現代であるが、果たしてそのストレスは、排除すべきなのだろうか?
緊張があるから緩みが生じ、凹みがあるから頂点の凸を理解できるとしたら、生きるためにストレスは必要なものとなってくることだろう。
【避けて通る方が良いストレス】
ストレスが人間にとって決してマイナスはものでないことはご理解頂けただろうか?
しかし、そうは言うものの、ストレスにおいても「避けるべきストレス」は存在する。
①「適切なストレスの裏返し」
自分が「やりたいこと」をやろうとしているのに、他のものに気を取られた事はないだろうか。
我々はふとした無意識の瞬間に、嫌なことを思い出していたり、粗探しをしたりする。意図せずに、無意識に望まないストレッサーを取り込んでいる可能性があるのだ。
カフェで仕事をしたいのに「Wi-Fiが接続できない」などはその例えとなるだろう。また、「メモを取りたい」となった時に手元にメモがないとしたら、イライラすることになる。
事前にWi-Fi環境下にあるカフェなのか、通信速度はどうなのか、また、メモを常に持ち歩くなど、自分で回避して対応できるストレスは避ける方が良い。
②慢性的なストレスを避ける
嫌な経験や思いをしたとする。その時のストレスは尋常ではないだろう。しかし、時間はすぎていき、ケロッとする人と、いつまでもそのことを引きずる人がいる。
そういった人に共通することが「思い返す」ことである。思い返すくらいに大きなストレスを受けたとなればその原因が自分ではないモノや人に向くかもしれないが、それを思い返しているのは、誰でもない「自分」である。
自ら、内的な刺激によってストレスを生み出しているのだ。
次回はストレスと向き合う方法について紹介したいと思う。
参考書籍
「スタンフォードのストレスを力に変える教科書」ケリー・マクゴナガル
「ブレインドリブン」青砥瑞人