【MFA健康コラムVol.134】「”動けるカラダ”は姿勢で決まる」― 姿勢と呼吸が生み出す、一生使える体幹の力 ―
梅雨入りを前に、気温と湿度が日ごとに上がり始める六月。
屋外での活動が増える一方、蒸し暑さや気圧の変動によって体のだるさや倦怠感を感じやすい時期でもあります。「最近、動き出しが重い」「階段を上るだけで息が上がる」「同じ家事をしているのに、以前より疲れるようになった」——そんな変化を感じている方もいるのではないでしょうか。
五月は横隔膜と腹式呼吸の基礎、胸郭の可動性と姿勢が呼吸の質を決めることをお伝えしてきました。
今月はその集大成として、「姿勢と呼吸が整った先にある体」、すなわち「動けるカラダ」とは何かを、体幹機能の視点から掘り下げていきます。
「体幹を鍛えよう」という言葉をよく耳にするようになりました。
しかし、腹筋運動を頑張っても腰痛が改善しない、バランスが悪いままという経験はないでしょうか。あるいは、「姿勢に気をつけている」つもりなのに、気づくと背中が丸まっている。
じつはここに、見落とされがちな問題が潜んでいます。
それは、「止まっているときの姿勢は保てても、動いているときに姿勢が崩れる」という現象です。荷物を持ったとき、咄嗟に方向を変えたとき、日常のふとした動作の中で、体はじつは多くの「崩れ」を起こしています。
これは筋力の問題ではなく、呼吸と体幹が動作中に連動できていないことが原因のケースが多くあります。「動けるカラダ」をつくるには、止まった姿勢を整えるだけでなく、動きながら姿勢を保つ力を育てることが重要です。
その鍵を握るのが、インナーユニットです。五月にもお伝えしたとおり、横隔膜・腹横筋・多裂筋・骨盤底筋群が連動して腹腔内圧を高め、体幹を内側から安定させる仕組みです。

では、このインナーユニットは「動作中」にどう機能するのでしょうか。
じつはインナーユニットは、動き出す前から姿勢制御に先行して働くことが明らかになっています。腕を素早く動かす直前、横隔膜と腹横筋は動作開始より早く収縮します。体は動き出す前から、無意識に体幹を固めて備えているのです。
ところが姿勢が崩れて胸郭の可動性が低下すると、この仕組みが機能しなくなります。体は補おうと腰や肩のアウターマッスルを過剰に使い始め、それが慢性的な腰痛・肩こり・疲れやすさにつながります。姿勢が崩れる→呼吸が浅くなる→体幹が不安定になる→体に余計な負担がかかる——この連鎖が、知らず知らずのうちに起きているのです。
インナーユニットの働きを引き出し、「動きながら姿勢を保つ力」を高めるエクササイズを2つご紹介します。どちらも道具不要ですが、「呼吸を止めない」ことだけを必ず意識してください。それだけで、体幹への効果がまったく変わります。
【1】ブレーシング呼吸(体幹の天然コルセットをONにする)
仰向けに寝て、膝を軽く立てます。鼻からゆっくり息を吸いながら、お腹を360度——前だけでなく、横・後ろ(腰のあたり)にも均等に膨らませるイメージで圧をかけます。このとき、お腹が固くなる感覚があれば、腹腔内圧が高まっているサインです。息を吐きながらゆっくり緩める。これを8〜10回繰り返します。お腹を「凹ませる」のではなく「張り出す」感覚がポイントです。

【2】バードドッグ(呼吸を止めずに動く練習)
四つ這いの姿勢から、右腕と左脚をゆっくり水平に伸ばします。このとき、腕と脚を動かしながらも呼吸を続けることが最大のポイントです。多くの方は、体を動かす瞬間に無意識に息を止め、腰が反ってしまいます。「脚を上げながら鼻から吸って、下ろしながら口から吐く」というリズムを意識することで、インナーユニットが自然と協調して働き始めます。左右交互に各8回、背中がまっすぐ保てる範囲で行いましょう。

五月から2か月にわたり、「呼吸→姿勢→動けるカラダ」という流れでお伝えしてきました。
「体幹を鍛える」というと、きつい腹筋運動を想像する方も多いかもしれません。しかし本当に必要なのは、呼吸と姿勢が連動した、体の内側からの安定です。それは特別なトレーニングではなく、日常の中で「息を止めない」「姿勢を感じる」という小さな意識の積み重ねから育まれます。
「動けるカラダ」は、年齢を問わず、今日から変えていくことができます。まず一つ、ブレーシング呼吸から始めてみてください。
参考文献
- Richardson CA, Jull GA, Hodges PW, Hides JA.Therapeutic Exercise for Spinal Segmental Stabilization in Low Back Pain: Scientific Basis and Clinical Approach. Edinburgh: Churchill Livingstone; 1999.
- Cholewicki J, Juluru K, Radebold A, Panjabi MM, McGill SM. Lumbar spine stability can be augmented with an abdominal belt and/or increased intra-abdominal pressure.Eur Spine J. 1999;8(5):388–395.
- Hodges PW, Butler JE, McKenzie DK, Gandevia SC. Contraction of the human diaphragm during rapid postural adjustments.J Physiol. 1997;505(Pt 2):539–548.
- Lynders C. The critical role of development of the transversus abdominis in the prevention and treatment of low back pain.HSS J. 2019;15(3):214–220.


