【MFA健康コラムVol.132】ゴールデンウィーク明けに整える”からだの土台” 呼吸から始まる健康づくり
ゴールデンウィークも一段落し、五月上旬を迎えたこの時期。新年度が始まってから約ひと月が経ち、新しい環境や人間関係にも少しずつ慣れてきた頃だろう。
しかし、慣れてきたからこそ、知らず知らずのうちに心も体も疲れをため込みやすい時期でもある。
やる気や期待が高まる一方で、「なんとなく疲れやすい」「集中が続かない」と感じる人も少なくない。
この時期に大切なのは、無理に頑張ることではなく、自分の土台となる部分を整えることである。

その土台のひとつが「呼吸」である。
さて、人が1日に何回くらい呼吸をしているかご存じだろうか。
個人差はあるが、一般的には約2万回ともいわれている。これは、食事や運動よりもはるかに多い回数であり、呼吸がいかに私たちの生命活動に深く関わっているかがわかる。
しかし、その呼吸を「正しく使えている人」は決して多くない。実際、アスリートであっても約9割が非効率な呼吸パターンをしているとも報告されている。
では、「正しい呼吸」とは何だろうか。
ポイントとなるのが「腹式呼吸」、そしてそれを支える筋肉である「横隔膜」である。
横隔膜は胸とお腹の間にあるドーム状の筋肉で、呼吸のたびに上下に動くことで肺に空気を出し入れしている。息を吸うときに横隔膜が下がり、お腹がふくらむ。これが自然で効率のよい呼吸の形である。

しかし、ストレスや姿勢の崩れ、長時間のデスクワークなどによって、胸だけで浅く呼吸する「胸式呼吸」が習慣化すると、横隔膜の動きは小さくなってしまう。その結果、呼吸は浅く速くなり、自律神経は交感神経優位、つまり“緊張状態”に傾きやすくなる。これは、疲労感や集中力低下、さらには肩こりや腰痛といった身体の不調にもつながる可能性がある。
呼吸は単なる「空気の出し入れ」ではない。体幹の安定にも大きく関わっている。横隔膜は腹筋群や骨盤底筋と連動し、体の内側から支える「インナーユニット」として働く。つまり、呼吸が整うことで姿勢が安定し、効率よく動ける体がつくられていくのである。スポーツのパフォーマンス向上だけでなく、日常生活の動作や転倒予防といった観点からも、呼吸は重要な基盤といえる。


では、「どのように」呼吸を整えればよいのか。
まずはシンプルに、自分の呼吸に意識を向けることから始めたい。仰向けに寝て、片手を胸に、もう一方の手をお腹に当てる。そしてゆっくりと鼻から息を吸い、お腹がふくらむのを感じる。次に、口からゆっくりと息を吐きながら、お腹がへこんでいくのを意識する。このとき、胸ではなくお腹が主に動いているかがポイントである。1回の呼吸を3〜5秒かけて行い、まずは1日1分からでもよい。大切なのは「正しく」「無理なく」続けることである。

こうした呼吸の習慣は、自律神経を整え、心身をリラックスした状態へと導いてくれる。また、日常生活の中でも、座っているときや歩いているときに「今、呼吸は浅くなっていないか」と気づくだけでも、体の状態は少しずつ変わっていく。
五月上旬は、新しい習慣を始めるのにちょうどよいタイミングである。しかし、特別なことを始める前に、まずは「呼吸」という最も基本的な機能を見直してみたい。1日2万回繰り返される呼吸が変われば、体も心も確実に変わっていく。
健康づくりは、特別な努力だけで成り立つものではない。日常の中にある小さな習慣の積み重ねこそが、将来の体をつくる。五月上旬は、新年度の疲れが出始めるタイミングでもある。自分自身の土台に目を向け、整えるための第一歩として、「呼吸」から始めてみてはいかがだろうか。それは一年を通しての健康づくりを支える、確かな基盤となるはずである。
参考文献
大貫崇:『きほんの呼吸 横隔膜がきちんと動けば、ムダなく動ける体に変わる!』,2019.
Shimozawa Y et al.: Point prevalence of the biomechanical dimension of dysfunctional breathing patterns among competitive athletes. J Strength Cond Res, 2023.


