【MFA健康コラムVol.3】「超高齢化社会を生き抜くために」 運動は脳機能を改善する?
[相愛大学 人間発達学部 発達栄養学科 藤本繁夫教授による特別コラム】
今回は、相愛大学教授 藤本先生による「 特別コラム 」をお届けいたします。
藤本先生は、大阪市立大学医学部、医学研究科にて医師免許、医学博士を取得後、
これまでに、日本オリンピック委員会強化スタッフスポーツドクター、
第3回東アジア競技大会大阪大会競技役員等を担当されてきました。
現在は、相愛大学 人間発達学部 発達栄養学科にて教授として教鞭を取りながらも
大阪府体育協会スポーツ医・科学委員会委員、大阪府医師会健康スポーツ医学委員会委員長
関西テニス協会スポーツ医・科学委員会委員、大阪マラソン医事委員会委員 等
多くの委員を務められています。
当協会の理事も務めていただいていることから、今回特別コラムをお届けすることとなりました。
それでは、ご覧ください。
「超高齢化社会を生き抜くために」
~運動は脳機能を改善する?~
日本は世界に先駆けて高齢化が進んでいます。
2016年には、65歳以上の高齢者は3461万人で総人口の27.3%になり、
20年後には3人に一人が高齢者になる超高齢化社会が予想されます。
2011年に行われた全国調査では、65歳以上の高齢者のうち、12~20%に認知症が認められました。
その特徴として、注意・計算機能が低下していること、短期記憶が低下していることが挙げられ、
その低下の程度は、日常の活動動作のうち、歩行、階段、運搬などの軽い運動能力の低下の程度と
関連しています。
60歳台の高齢者10人を対象に、軽い歩行運動中の注意機能検査を実施しました。
注意機能検査は、アトランダムに配置された1から25の数字をできるだけ早く線で結ぶ
Trail Making Test(TMT)を用いました。
高齢者でも、運動すると脳の血流量が増して、脳の酸素化ヘモグロビン濃度が上昇します。
運動中の脳の酸素濃度が上昇している時のTMT時間は49.7±6.7秒と、
安静時の55.2±12.1秒と比べて有意に改善したのです。
さらに、この注意機能改善の程度は、脳の血流量改善の程度と関連しています。
このことは、高齢者でも運動すると脳の血流が良くなって、運動中の注意機能が改善することを
示しています。
従って高齢者でも、スポーツを行うと注意機能が良くなり、脳の活性化につながります。
速歩やジョッギングなどの軽い運動は有酸素運動になります。
成人を対象した調査で、有酸素運動のトレーニングを3カ月間続けると、
記憶をつかさどる海馬の血流量の増加に伴なって短期記憶が改善し、
さらに脳内の神経栄養因子が増加し、神経が新生することが報告されています。
一般の高齢者を対象にした研究でも、日常の身体活動量が認知機能と関連する事が分かっています。
Sofiらは、15編の論文をまとめた結果、計33,816人の高齢者を対象に1~12年間観察を実施し、
3,210人の認知症の出現が確認されましたが、
身体活動量を維持している高齢者では、認知障害の出現する危険度が運動していない群に比べて
38%予防できたことを報告しています。
この身体活動量としては、週3回以上の歩行、一日60分以上の歩行、1週間に計4時間以上の歩行、
自転車、ダンスやゴルフなどの軽い有酸素運動を挙げています。
さらに、筋肉も認知に関係します。
筋肉は、糖と脂質を燃焼するエネルギー産生の工場で、
筋力トレーニングを行っている群では、筋力が増すだけではなく
認知機能も良くなることが報告されています。
即ち、筋力トレーニングを行うと、筋肉内でインスリン様成長因子(IGF-1)が産生され、
これが海馬に働いて認知機能を改善します。
体組成の経年変化では、男女とも50歳を過ぎると筋肉量が低下し、筋力も低下してくることで
歩行に影響がでる“サルコペニア”に陥ります。
この筋肉量の低下に伴なって、認知機能の低下が加わると
心身共に虚弱(フレイル)の悪循環に陥ります。
従って50歳を超えると筋力トレーニングを行い、筋量・筋力を維持することが
認知機能低下の予防にも繋がってくるのです。
このように有酸素運動だけではなく筋力トレーニングも脳機能を改善し、
認知機能低下予防の一助になります。
運動を取り入れることで、自身の体力と脳機能を維持するよう努めていきましょう。